ムタさんと僕②
《前回の記事の続き》
ムタさんには「歯」がなかった。
サイゼリアのピザとサラダが、ボロボロと口からこぼれ落ちる。ちなみにムタさんは、40代前半。
「ありがとう。ありがとう。」
と言って、服の上にのった食べ物をもう一度丁寧に口の中にいれるムタさんが印象的やった。
炎天下の中、涼しいサイゼを後にして、外に出たが、耐えきれない程の直射日光に肌が焼け落ちそうやった。
なるべく、日陰を歩いて、2人で公園に向かった。
「ごめんね、ウチには入れなくて」
家に入りたくて来たわけじゃなかったし、家に入れたくない人おるよね。って感じで軽く流しとった。
それよりも、約10ヶ月くらいの間、電話やテレビ電話、DMでやりとりした「ムタさん」と一緒におる事が不思議な感覚やった。
嫁と子供に離れて行かれた事によって感じる孤独感。
会社の中でいじめられて、クビになって働く気力がなくなってしまった。
それでも何か「突破口」を見つけようとして、俺にメッセージを送ってくれたに違いない。
なんとかして、パワーをあげたかった。
公園で、汗べっとべとになりながら、話を聞かせてもらった。ネガティブな話ばかり。
(俺、こうゆう人と対峙していくんやんなこれから。)
デンソーに入ってから企業の「中」の人としか繋がりがなかったし、「外」を知らなさすぎた。
生活保護を受けとって、助けてくれる人に頼る「勇気」も「アテ」も「金」もない。
こうゆう人をどうやって救ってあげるんやろう?
頭の中で考えながら、ムタさんの話に耳を傾けとった。
すると、ムタさんから
「ゆうやくん、ウチに上がっていかない?」
ムタさんの家にお邪魔することになった。
このあと、衝撃的なモノを見る事になる。
続く。